行動経済学(山根承子)

  • 行動経済学1

    プロスペクト理論では「価値関数、参照点、主観確率」という三つの概念がきわめて重要です。
    今回の講義では価値関数を主に扱います。
    価値観数は、人間のもつ「損失を利得よりも過大に評価する」という性質を描写できる関数です。
    この関数を用いると、伝統的な経済学では扱いきれなかった、「損失が出ている失敗の局面で、損失を取り返そうと、無茶な賭けに出てしまう」人間行動などを分析できるようになります。
    これは損失を過度に感じてしまうため、ハイリスクな選択を選んでしまうわけですが、そのような人間の傾向を知っておくことは、自分の選択を冷静に補正する強力な助けとなります。

  • 行動経済学2

    今回の講義では、前回に引き続き「損失回避」と、行動経済学の応用において重要な「参照点」について解説します。
    損失回避とは、損失を利得より過度に評価してしまう、人間心理の傾向です。
    参照点は、人間が何かを選択する際に、基準点のように扱ってしまう設定のことです。
    例えば「給料から貯蓄を天引きする設定」に最初からなっているときと、なっていないときでは、人間の選択は変わります。
    また、一時的に裕福になった人が、そのとき生活水準を上げると、その水準が当たり前のような参照点となって、その後に生活水準を下げることが難しくなります。

  • 行動経済学3

    主観確率とは、人間が心的に感じる確率です。主観確率の大きな特徴に、可能性効果と確実性効果があります。
    可能性効果とは、起こりそうにないことを過大推定してしまうことです。
    確実性効果とは、「決して元本割れしない投資商品」のような確実なものを過度に好む傾向のことです。
    99.9%と100%の違いを、人は過大にとらえます。
    こうした一種の悲観性に加え、当たるはずのないような宝くじを買ってしまう楽観性についても考察します。

  • 行動経済学4

    保有効果とナッジを主に解説します。
    保有効果とは、損失回避と参照点で説明できる、自分が持っている物の価値を過大評価してしまうことです。
    保有効果によって、変化や新しいものを拒む現状維持バイアスが発生します。
    ナッジとは、損失効果や現状維持バイアスといった人間行動の癖をうまく利用して、人々の行動を誘導することです。
    ナッジは人間行動への一種の介入ですが、どのような介入がいかなる意味で好ましいか、そうでないかについても論じます。
    例えば、「給料が上がると、天引きする貯蓄額も自動的に上がる設定(ただし本人はその額をいつでも下げられる)」にするのはナッジの一種です。
    その設定が現状維持バイアスを生み出し、本人は上がった貯蓄額を自由に下げられるにもかかわらず、あまり下げようとはしなくなります。